映画『夜明けのすべて』の感想

私もパニック障害です。

暗黒/明滅で気絶しそうになるタイプです。電車に乗れない時期もあり、美容院に行くのも今でも怖いです。目隠しがきつい。

 

アルプラゾラムを服用していたこともありますので、藤沢さんが副作用で仕事中にも関わらず爆睡してしまっていたのも、山添くんが薬を紛失してしまい取り乱すのも、とてもよくわかる。

今でこそ自分に最適な呼吸法を身に付けて薬なしでも発作をコントロールできるようになったのですが、一応お守り薬として毎日財布に忍ばせているアルプラゾラム0.4g。

 

前の職場にPMSと思われる上司がいた。

普段非常に優しく思いやりに溢れたその人は月に一度、周囲の目を気にせず急にブチ切れる。上白石萌音さん演じる藤沢さんと重なった。その人も途中で体調を崩して退職していった。

 

この作品のテーマに関しての解像度は相当高い。そんな私が観て思ったことを殴り書きで失礼します。

 

まず、この作品に出てくる周囲の人全員のなんと優しいことか。

PMS発作を起こした藤沢さんを介護するルーティンみたいなオペレーションをこなす先輩たち、山添くんの前職の上司は忙しい業務の合間を縫って(山添くんがパニ障を発症したのも多忙が原因であるぽいし、別の部下が今日は会社に泊まりますと言っているのを申し訳なさそうな目で見送るような上司の描写もあったので)山添くんとzoomで面談し、彼が職場に戻って来れるように取り計らう。周囲のその優しさに涙しそうになる。

 

周囲の人間の誰ひとり彼らを厄介だと誹るような描写もないのは流石に物語だなあと100%素直に受け止められなかったのは私の勝手な嫉妬かも知れない。

 

山添くんの元上司は恐らくシングルファーザーか、離婚しているような描写がある。

社長の光石研も共同経営者の弟を自死で亡くしている。

介護者(介護者という言葉はよくないかもしれないすみません)は純粋な介護者(ああごめんなさい)ではない。

 

 

山添くんの彼女が山添くんの部屋の前で藤沢さんと対峙した時修羅場になるのかと観客誰もが構えていたのに肩透かしを食らっただろう。恋敵のような藤沢さんに対して安堵し、お礼を言って御守りを受け取って帰っていったのだ。介護者(ああ)の葛藤みたいなところもちゃんと映り込んでいてよかった。

 

ずっとやりがいを感じない、転職したい(前の職場に戻りたい)と腐っていた山添くんが藤沢さんという悩みをフランクに打ち解けられる人間と出会って「俺、この職場で頑張ろうと思います」と打ち明けたらあろうことか元上司の人は泣いてしまった!なんて良い人なんだ…

 

大きなネタバレで恐縮だが見始めは松村北斗上白石萌音のロマンス的展開を受け入れる準備もしていたのだがそれがまったくなかった!すごい。

しかし見終わった後公式サイトを見ようとしてタイトルで検索したら「夜明けのすべて キスシーン」というサジェストが現れた。

ひょっとしたらこれは原作ではキスシーンがあったのが監督の意向でその一切を編曲されたのか!?とジャーナリズムみたいな好奇心に取り憑かれ詳細を追ってみたらアイドルのキスシーンを危惧したオタクたちが積み上げた検索履歴だったぽい。


主人公たちと同じような病気を持っている自分はこの映画を観ることによってかなり前向きな気持ちになれた。シンプルに観てよかった。

また数年後に絶望したときなどに見返したい。

上白石萌音がかわいい。


余談だけどこの手の映画に出てくる久保田磨希の一等星みたいな輝きなんなんだ。